第1回連帯経済社会フォーラム報告

第1回連帯経済社会フォーラムがブラジルはリオ・グランデ・ド・スール州のサンタ・マリア市で2010年1月22日から24日にかけて開催され、この新しい経済のさまざまな分野における達成事項が紹介されたり、克服すべき課題が明確化されたりした。数百名にのぼる参加者の大多数はブラジル各地および近隣諸国(特にアルゼンチンやウルグアイ)からの参加であったが、米国、カナダ、欧州およびアジア(私のみ)からの参加もあった。このイベントへの参加者の大多数は同州ポルト・アレグレ市やその近郊に移動し、そこで1月25日から29日にかけて開催された世界社会フォーラム10周年フォーラムで議論がさらに深められた。

1月22日(金)は、ポルト・アレグレで2001年1月に第1回世界社会フォーラムが開催されてからこれまでの経過を振り返った後、2つの全体会議(「ブラジル国内市場における連帯フェアトレードに関する全国セミナー」と「国際集会: 連帯経済と世界社会フォーラム-過去の回顧と将来展望」)が同時並行で開催された。私は国際集会のほうに参加したが、そこでは連帯経済に関して周辺国の参加者が、連帯経済部門でブラジルが達成した数々の業績(連帯経済局(SENAES)やブラジル連帯経済フォーラム(FBES)などの創設)を賞賛したり、連帯経済を国外にも広げるためにブラジルにさらにリーダーシップを発揮してくれと要請したりしており、またメルコスル(南米共同市場)加盟各国(アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル)内で関税政策を調整し、連帯経済の商品が国境を越えて取引しやすくなるようにすることの重要性が強調されたりした。

2日目(1月23日(土))は、5つの分野(「連帯金融」、「教育と文化」、「国際連帯統合」、「連帯生産/販売/消費」および「食糧・栄養主権」)で分科会が開催された。私は連帯金融分科会に参加したが、そこでは私自身を含む7名が発表した。アルゼンチンから来たREDLASESのエロイサ・プリマベーラ(Heloisa Primavera)女史は、現在の通貨制度では通貨供給量が不十分であることを指摘した上で、ブラジル中銀が地域通貨に対して技術的支援を開始していると述べた。彼女は連帯経済が依然として貧者の経済活動とみなされている現状を批判し、新たな開発モデルとして見直すことを提唱した。その後補完通貨研究所 JAPAN創設者として私が続き、現在の通貨が負債であるという特徴を持っている点や、地方自治体はおろか各国政府でさえ自らの交換手段=通貨を制御できない点、また複利によって指数関数的な成長が強要されている点や、貧しいから金持ちへと富が再配分されている点を指摘し、補完通貨の事例をいくつか紹介した。その後リオ・グランデ・ド・スル州連帯交換市ネットワーク(Rede Estadual de Trocas Solidárias)のパウロ・モレイラ(Paulo Moreira)氏が、ブラジルの法定通貨レアルではなく交換券を使って商品が交換される交換市の実践について簡潔に紹介した。

さらにプレゼンは続いた。リオ・グランデ・ド・スル州の州都ポルト・アレグレから参加した中南米労働者協同組合・互助組合連合(COLACOT、Confederação Latinoamericana de Cooperativas e Mutuais de Trabalhadores)のロジェリオ・ダロー(Rogério Dalló)事務局長は、ブラジルにおいて信用組合の預金額が全預金額の4%に過ぎないと語り、バーゼルII や国際決済銀行などが推し進める新自由主義的な政策を批判した上で、中南米でもドミニカ共和国やパラグアイなどはそのような新自由主義的な政策をそのまま導入していないことを指摘し、信用金庫をバーゼルIIの対象外にすることや連帯経済世界銀行の創設を提唱した。ブラジルはセアラ州の州都フォルタレザ市でパルマス銀行(http://www.bancopalmas.org.br/およびhttp://www.banquepalmas.fr/)を創設したジョアキン・メロ氏は、ブラジルに存在する膨大な貧困は、ブラジル人の半数が金融機関から排除されているという現実に起因すると語り、パルマス銀行などのコミュニティ銀行は「ネットワークを形成した連帯金融サービスで、提携やコミュニティをベースとしており、連帯経済に基づいた雇用や収入を生み出す目的で地域経済の再構成に専念する」ものであると語った。フランスでSOLプロジェクトと呼ばれる補完通貨を実践しているセリナ・ヴィタカー(Celina Whitaker)女史は、このプロジェクトが通貨について考え直そうという着想から発生したものであり、GDP以外の指標を基にした経済活動の推進を意図していると説明したあとで、連帯経済を社会運動の目的達成のための手段と規定し、この補完通貨の使用方法(連帯経済関係の商店におけるポイントカード、タイムバンクおよびボランティア向けポイント)を紹介した。そして最後にSENAESのアロルド・メンドンサ(Haroldo Mendonça)氏が、ブラジルでも開発が遅れている北東部への融資に特化した北東部銀行(Banco do Nordeste)の成功に加え、地域通貨を発行しているコミュニティ銀行に対する中央銀行の努力を紹介した。さらに、メキシコの全国協同組合連盟(Alianza Cooperativa Nacional)の社会運動を支援しようという提案も行われた。

1月24日(日)には、食糧・栄養主権、都市農業、国際統合、行政とNPOの協働、連帯教育と文化、連帯経済の社会主義的なアイデンティティ、民衆協同組合インキュベータ、連帯経済のためのソーシャルネットワークサイト(Cirandas)、原材料調達ルートの確保、若者の参加および新たな教育方法などさまざまなテーマで、20ものワークショップが開催された。午後には土曜日の議論の内容がまとめられ、連帯経済と世界社会フォーラムとの間でお互いのためになる交流が行われ、これにより各地の連帯経済の担い手が国や大陸を超えて連携できるようになったことや、公共政策の調整の必要性、実践例のマッピングの重要性、大企業が食糧の供給を制御している現状への抗議、種子銀行の創設、食糧に対する権利、都市と農村の連帯、南北間のみならず北北間や南南間でのフェアトレードの重要性や開発も出るのパラダイム・シフトなどが話題に上った。

議論自体は翌週もポルト・アレグレ都市圏で続けられ、各国(ケベック、パラグアイ、ブラジル、メキシコ)における公共政策の比較を行ったセミナーや、ウルグアイ・ブラジル・フランスおよびボリビアから5名が無償経済について語ったセミナーなどが行われた。ブラジルでは連帯経済は民主主義の伝統に基づいており、ルラ政権(2003~)のもとでSENAESやFBESの創設により強化された一方で、パラグアイでは連帯経済はまだまだ歴史が浅いことや、メキシコでは信用金庫を推進する法制度に向けた取り組みが行われていることが紹介された。無償経済については、現在の経済では重商原理主義が行き過ぎていることや、医療が公共財であることから無料であるべきだという議論が行われた。

合計8日にわたったこのフォーラムは、正直なところちょっと長過ぎたと私は思う。特に真夏の昼間に冷房もない場所で議論が行われたことから、参加者にとってかなり疲れるものであった。また、ポルト・アレグレ都市圏ではセミナーやワークショップが各地に分散する形で開催されたが、その距離もまた問題点だったと言える。外国からの来訪者の観点で言うと、設備の整った大学など建物内で会議が行われていればありがたかったと思う。

また、このフォーラムを改善する上でのもうひとつの課題は、中南米以外とネットワークを強化し、中南米外から参加者が来て交流できるような通訳サービスの提供である。アジアからの参加者が私だけで、中南米外からの参加者が私が思っていたよりもはるかに少ない(中南米以外からの参加者は10名未満)だったことは残念である。第2回連帯経済社会フォーラムが開催される場合には、中南米以外からの参加を増やし、この運動を全世界的なものへと進化させてゆくために、さらなる努力が必要となるだろう。

2件のフィードバック to “第1回連帯経済社会フォーラム報告”

  1. 第2回世界連帯経済フォーラム、ブラジルで2013年7月に開催 « 連帯経済情報@日本語 Says:

    […] さて、第2回世界連帯経済フォーラムが、来年7月11日(木)から14日(日)の予定で、ブラジル最南部リオ・グランデ・ド・スル州のサンタマリア市で開催されることが決まりましたので、お知らせしたいと思います。 関連情報(ポルトガル語): http://www.fbes.org.br/index.php?option=com_content&task=view&id=7259&Itemid=62 なお、2010年1月に開催された前回(第1回)のフォーラムには私も参加しましたが、そのときの報告書(日本語版)はこちらです。 日本からは地球の反対側ということで、遠隔地ではありますが、世界で最も連帯経済が活発なブラジルの事情を知る良い機会ですので、もし可能でしたら参加をご検討くださいませ。なお、7月の当地(南緯29度41分、標高151m)は真冬で、日本の真冬並みに冷え込みますので、その点はご注意くださいませ。今後詳細情報が発表されたらまた案内いたします […]

  2. 第2回世界連帯経済フォーラム、ブラジルで2013年7月に開催 « 連帯経済情報@日本語 Says:

    […] なお、2010年1月に開催された前回(第1回)のフォーラムには私も参加しましたが、そのときの報告書(日本語版)はこちらです。 […]

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