「パラダイムシフト──社会や経済を考え直す」過去ログ一覧

12月 31, 2017

アジア連帯経済フォーラム2012@インドネシア・マナド市

10月 7, 2012

アジア連帯経済フォーラム2012が10月1日(月)から3日(水)にかけて、インドネシア・北スラウェシ州マナド市にあるサム・ラトゥランギ大学の国際ビジネス経営学院(IBA)で開催された。17カ国(欧州5カ国およびカナダを含む)から数百名がこのイベントに参加し、アジア各地で生まれているさまざまな経験を共有および学習した。

初日(10月1日(月))は、北スラウェシ州のシニョ・ハリー・サルンダジャン州知事のメッセージを含む開会式から始まった。その後インドネシア人研究者4名が、コンラート・アデナウアー財団の招聘によりドイツを訪れ、同国での社会的市場経済の実践について学んだ内容を報告した後、Bina Swadaya(インドネシア)のバンバン・イスマワン氏が連帯経済に関する展望を発表した。彼はベンジャミン・キニョネス(ASEC会長、詳細は後述)による連帯経済の定義、すなわち“社会的企業により推進される経済”について言及し、彼による3P(「人々、地球および利益」、People, Planet and Profit)を紹介し、インドネシア企業のうち99.2%が中小企業であることを強調した。また、連帯経済について“経済活動を行っているが貧しい人たち,”のためのものであるとして、高齢者や若年層、あるいは最貧層や通常の中小企業を運営可能な層を除外した。中小企業の設立を実現する上でのマイクロクレジットの重要性を強調した後、コミュニティ組織の最善形態は“活発な会員活動”、“選出されたリーダー”、”経済的 + (社会的・教育的)” 活動および“民主的参加”を伴った自主運営組織だと説明した。このような組織は“相互学習および教育、問題の特定、意思決定、資源の活用および第3者との対話における装置”であると語り、その特徴を “収入創出への目標設定”, “開かれた気持ち”および“民主的”であると指摘した。

続いて、アジア連帯経済評議会(ASEC)のベンジャミン・キニョネス理事長が登場し、社会的連帯経済に関する彼の定義についてさらなる情報提供を行った。この部門を公共部門と民間部門のどちらにも属さないものとして定義した後、 “所有および資源管理への人々の参加”および事業の共同所有者としての“利益の共有”を強調した。彼は“連帯”、“相互依存”および“人間関係の構築” を“啓発的価値観”と特定し、ガバナンス、倫理的価値観、提供される社会開発サービス、環境保護措置および持続可能性の観点から社会的連帯経済を評価する枠組みを提示した。ウタラ大学(マレーシア)のダト・モハマド・ユソフ・カシム教授が協同組合の重要性を強調した後、ケバンサン大学(マレーシア)のデニソン・ジャヤスリア教授は、企業の社会的責任(CSR)同様に協同組合やマイクロクレジットが、市民社会において持続可能な開発を達成する上でのカギとなると語った。

午後にはワークショップが5つ(経済的安全、社会的に責任のあるガバナンス、社会福祉の拡張、健康な環境および価値の啓発)開催され、その後サム・ラトゥランギ大学のパウルス・キンダンゲン教授が、資本主義が多くの人を疎外していることと、貧しい人たちをエンパワーすることの重要性を強調し、連帯経済を “資本主義の不公正な経済慣行からの出口”と定義する一方、資本主義を廃止するのではなくそれとの共存を目指していた。 彼はインドネシア憲法の第33条に言及し、協同組合の役割が“インドネシアにおける経済的民主主義の創造あるいは創設において重要な機関”と規定されていると述べ、“ゴトン・ロヨン”あるいは “マパルス”(日本語の「もやい」に相当)という単語を紹介し、政治的干渉については“共同組合が失敗した理由の一つ”と批判した。インドネシア銀行(同国の中央銀行)のスハエディ氏は金融的包摂をインドネシア経済における最大の課題のうちの一つであると語り、ヴィヴィ・ジョージ女史は女性の生産活動におけるマイクロクレジットの経験を共有した。

2日目(10月2日木曜日)は、2万名近い人の命を奪った2011年の東日本大震災の津波により壊滅的な被害を受けた沿岸地域における地域再生という困難な業務について、PARCICジャパンの井上礼子女史が行った発表から始まった。彼女はソーシャル・キャピタル、市場および経営管理スキルこそが、連帯経済の発展において最も必要とされる要素であると強調した。南スラウェシ州マカサル市はハサヌディン大学のウィム・ポリ教授は、連帯経済を築く上で同情を超える必要があることを述べた。そしてフィリピンの持続可能社会財団のジェイ・ラクサマナ氏は、フィリピンとスイスの両政府間で合意された債務を開発資金に充当するスワップの結果創設された同財団について語り、社会的企業の創設および地域経済の発展への同財団の取り組みについて語った。そしてケーススタディとして、中部ジャワ州のプヌル流域における農業を推進する取り組みについてアリ・プリマトロ氏が語り、3つの達成事項(自助グループの推進、事業開発サービスおよび市場とのつながり)を説明した。ギアン・マンサ氏は、竹の手工芸品についての体験を語った。そしてフィリピンはオン・イーグルズ・ウィング財団のジャン・マリー・ベルナルド女史は社会的連帯経済の5つの柱、すなわち“社会的使命に根ざした、あるいは社会的に責任のあるガバナンス”、“価値観の啓発”、“社会的開発業務”、“環境保護”および“持続可能性”をフリー・レンジ・チキン・サプライチェーンに適用する方法について語った。

そして金融に関するセッションが始まった。シンガポールにあるImpact Investment Exchange Asiaのマグヌス・ヤング氏は、アジアにおける社会的投資の機会について説明し、その後補完通貨についての専門家廣田裕之社会的補完通貨についての説明を行った。その後ケーススタディが3つ発表された: インドネシアのネガラ銀行PNPMがインドネシア語で発表を行い、フィリピンにあるコメとタマネギのサプライチェーンAPPENDが、より良好な条件で農家への融資状況が改善した話を行った。午後にはASEF市場が開催され、バイオエタノール、家屋、手芸品や観光業などさまざまな業種が紹介され、その後ラチマット・モコドンガン氏が北スラウェシ州における有機米の農業を、ピット・ヘイン・プスン氏がManadokotaと呼ばれるマナド市内のITセンターを紹介し、両方の場合でも マパルスの重要性が強調された。最後にシグマ・グローバルのハサン・チャンドラ氏が実業家の立場から、融資を得る困難性について話を行った。

最終日(10月3日(水))は、連帯経済の概念に関する発表3つから始まった。サム・ラトゥランギ大学のヘルマン・カラモイおよびジュリー・ソンダク両教授は、“非営利団体の一つ”、“主にチャリティの基金およびボランティアを通じて商品およびサービスを提供する非営利団体の一部” (Kam, 2010)および“利益あるいは社会への価値を提供および改善する上でビジネスの手法および慣行を適用する組織”という社会的企業の定義を紹介し、これらをチャリティと伝統的な企業の中間に位置づけ、社会的企業の説明責任の重要性を強調した。CCEDNETのイヴォン・ポワリエは、社会的経済、社会的企業や第3セクター(日本語の第3セクターとは違い、英語の第3セクターは非営利セクターの意味)など連帯経済関連で似てはいるものの異なる概念を説明し、世界各地にあるさまざまな概念は強みである一方、これらの努力を統合することは大きな課題であると語った。ブリティッシュ・カウンシルのキム・ショミ(韓国)は、社会変革に若者を巻き込むプロジェクトであるグローバル・チェンジメーカーについて語った。そしてサム・ラトゥランギ大学国際ビジネス経営学院の教員が、教育経験および別のコミュニティ研修センターILMUについて話した。

そして最後の全体会では、発表が4つ行われた。AKSI-UI財団(インドネシア)のベニート・ロプララン氏とデウィ・フタバラト女史は、インドネシア人がマレーシア人あるいは東ティモール人と協力している事例を紹介した。Ekovivo(フランス)のオリヴィエ・アンドラン氏およびフロランス・ヴァル女史は、ウェブ上での視覚性を高めることにより社会的企業が融資を受けやすくするプロジェクトを紹介した。リカルト・B・アベフエラ氏およびモニック・センケイ女史は、インドネシアとフィリピンとの国境地帯の島に適用されている合意が、今となっては両国間の貿易を妨げ、連帯経済の推進においても障害となっていることを指摘した。そして最後にサム・ラトゥランギ大学国際ビジネス経営学院のイヴァナ・テー女史が、アジアにおける連帯経済の活動家が生産した商品を販売するポータルサイトとしてのwww.asefonlinemall.comを紹介した。そして閉会式では、素晴らしい社会的企業のプロジェクトを提出した学生に対して賞が授与された。

このフォーラムがビジネススクールによって開催されたことは、メリットもデメリットもあったといえる。メリットとしてはビジネス管理やマーケティングなどのスキルにおける専門知識を強調したい。また、インドネシアでは英語は公用語になっていないことを考えると、同学院の学生の流暢な英語力は評価に値するといえよう。

しかし同時に、このフォーラムではアジア、特に開催国インドネシアにおける連帯経済の将来に対していくつかの課題も提示された。まず、このフォーラムでは社会的企業が中心に据えられ、協同組合運動や自主運営、およびこれら企業と社会的運動との関連に対して十分に脚光が当てられているとは言えなかった。中南米の事例を知る筆者の観点からすると、連帯経済、特に貧困削減における中間層の役割は、中間層自身が社会的企業を作るというよりも、貧困層が自分たちの協同組合を設立できるよう支援することであるが、アジアと中南米の歴史的背景が完全に異なり、かつてのチャリティプロジェクトから社会的企業が発展してきた事実を鑑みると、少なくてもアジア各国での業績全てに対してきちんとした敬意を払う必要がある。

もう一点、会議中インドネシア語がそれほど使われなかったことにより、一般インドネシア人がこの貴重な会議に参加できなかったことも残念な点として指摘しておきたい。連帯経済は普通の人たちのためのものである以上、一般民が理解できる形で会議を行い、具体的には英語とインドネシア語との同時通訳が提供されていれば理解に役立ったことだろう。

社会的経済法に関する連続講演会(スペイン・バレンシア市)

10月 7, 2011

社会的経済法に関する連続講演会が、スペイン・バレンシア市のカハ・ルラル(農村金庫)の会議室で2011年10月6日に開催され、同年3月に可決された同法の重要性についての評価が行われた。スペイン経済の中で重要な役割を果たす同部門について、3名が連続して発表を行った。同法の主要部分の邦訳はhttp://ecosoljp.wordpress.com/2011/04/27/%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%9D%A1%E6%96%87/ で、および全文はhttp://www.boe.es/boe/dias/2011/03/30/pdfs/BOE-A-2011-5708.pdf (スペイン語)あるいはhttp://www.socialeconomy.eu.org/IMG/pdf/LEY_E_SOCIAL_TRADUCCION_INGLES.pdf (英語)で読むことができる。

最初に発表したスペイン社会的経済企業連合会(CEPES, Confederación Empresarial Española de la Economía Social)のカルメン・コモス(Dr. Carmen Comos)理事長は、同法の編成における経験を語った。同連合会に同国の社会的経済関係団体のうち85~90%が加入していることから、国会議員らに対して同連合会が業界を代表しており、法律の制定のための準備交渉を始めるべく説得することは簡単であった。2008年の総選挙直後にCEPESは同法の制定という考えを全政党に提案する一方で、内部でも議論を重ねて、あまり詳細に立ち入らない形でわずかな条項の法律にするという合意に達した。2009年2月にCEPESと労働移民省との間でそのためのプロセスの対話が始まったが、その交渉は必ずしも平和なものではなく、数多くの議論を引き起こした。彼女は以下の点を強調した:

  1. 全会一致による法律の可決
  2. 雇用および収入を生み出す点における、社会的経済の貢献の認識
  3. 公共部門と社会的経済のプレイヤーとの間での対話チャンネルの確立
  4. 社会的経済を推進するという、スペイン政府および/あるいは各州政府の義務
  5. 実業界および学会に対する、社会的経済の視覚化

とはいえ、統計の作成や公共政策の実施により、社会的経済の発展における障害を除去するために、同分野の成長を促す上で課題があるのは確かである。
次に発表したIUDESCOOP(社会的協同経済大学研究所、Instituto Universitario de Economía Social y Cooperativa) およびバレンシア大学のヘンマ・ファハルド(Dr. Gemma Fajardo)は、この法律で制定されている内容を説明した。彼女はまず、2009年2月の社会的経済における欧州議会の決議(英語版は http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?type=TA&reference=P6-TA-2009-0062&language=EN で)がこの法律の推進において重要な役割を果たしたと語り、NPOや協同組合など社会的経済の各活動についての規定を変更することなく、それら全てを同じ枠組みに入れたのがこの法律であると説明したが、経済活動の種類ではなくその運営方法こそが社会的経済の目的の達成において考慮されるべきであるため、同経済の担い手の定義については非常に批判的であった。また、同法では各州政府が社会的経済の推進を担当することになっているが、スペイン憲法の第131条では経済活動を推進するのは中央政府であることから、その点の矛盾も示された。さらに、社会的経済憲章では明確に規定されている「自主的かつ開かれた組合員制」が同法では抜け落ちている点についても疑問を呈した。
最後に発表した、同じくIUDESCOOPおよびバレンシア大学のホセ・ルイス・モンソン(Dr. José Luis Monzón)は、社会的経済部門に対する分析を行った。彼はまず、スペインが欧州で始めて、欧州議会や学術調査に由来する定義によりこの法律を制定したことを強調し、公共政策の編成のためにこの部門の代表が政府と対話を行うことができるようになっていると語った。また、社会的経済は同国経済の10%を占めており、100万人以上を雇用していることなど、さまざまな数字でその規模を示した。

この法律が社会的経済を推進する上で貴重な土台となっている点については疑問の余地はないが、社会的経済が本当の意味で推進されるためにはまだまだ多くのことがなされる必要があることも確かである。スペインではまだほとんどの人が社会的経済を理解していないことから、各州政府が社会的経済についての情報を提供したり、研修講座を開いたり、会議および/あるいはさまざまな公共政策を実施したりして、協同組合やNPOなどの発展を加速させて、これら経済活動が全体として認知されるようにすることが今すぐ求められる。

さらにもう一点、今回の発表が非常に欧州中心的であり、中南米(特に連帯経済局ブラジル連帯経済フォーラムが二人三脚で同部門を推進してきたブラジル)、カナダ(特にケベック州)およびアフリカなど他の大陸で起きている同様の動きについての言及がなかった点が残念である。私がこう思うのは、おそらく中南米に焦点を当ててきた私の活動ゆえなのかもしれず、スペイン政府が構築している国際協力の多くが欧州連合を通じてのものであることも認めるが、スペイン国内の社会的経済の推進者が欧州外のパートナーとの対話を始め、相互学習のチャンネルを構築できれば非常に有意義なこととなるであろう。

連帯経済紹介ビデオ(日本語字幕つき)

3月 7, 2011

2006年にブラジルで公開された連帯経済の紹介ビデオに、日本語字幕を入れてみた。

ビデオ画面のすぐ下にあるCCにポインタを当てると言語選択ができるので、ここで日本語を選択すると日本語字幕で視聴できる。とりあえず「連帯経済って何?」という疑問に答えるビデオとなっているので、ぜひご覧あれ。

アジア社会的企業家サミット2010

12月 5, 2010

アジア社会的企業家サミット2010が2010年11月29日(月)と30日(火)、韓国ソウル市瑞草区のソウル教育文化会館(서울교율문화회관)で開催された。この会議は共に働く財団(함까 일하는 재단)が主催したが、この財団の理念は「社会格差を是正し雇用にやさしい環境を生み出すことによる持続可能な社会の建設」であり、「非営利部門を通じて尊厳のある雇用の創出」および「社会の最脆弱階層に向けて雇用福祉を改善すべく社会協力サポートを強化」という目的の下で多様な活動を実施している。これほどの規模の会議を開催した上で、英語や韓国語に加えて日本語や中国語でも全発表の要約を提供してくれた同財団には、感謝の意を表明したい。

韓国は、社会的企業を推進する法的枠組みを持つ、世界でも数少ない国である。2007年7月1日に施行された社会的企業育成法(사회적기업육성법、日本語訳はこちら)では社会的企業、すなわち「脆弱階層に社会サービス又は就労を提供し地域住民の生活の質を高めるなどの社会的目的を追求しながら、財貨及びサービスの生産販売など営業活動を遂行する企業」に対して、中央政府や地方自治体による情報面や会計業務、税金減免、施設や人件費などの財政支援、公共機関による優先購入などを認めている一方で、この制度の受益者である社会的企業は「営業活動を通じて新たに創出した利益を社会的企業の維持拡大に再投資するように努力」するよう求められている。現在のところ政府に公式認定された社会的企業は300社以上存在し、1万人以上に雇用を生み出している。

この会議はソン・ウォルジュ(송월주)共に働く財団理事長およびパク・チェワン(박재완)雇用労働部長官(日本風に言うなら雇用労働大臣)のあいさつで始まり、その後ガワド・カリンガ(Gawad Kalinga)のアントニオ・メロト(Antonio Meloto)氏(フィリピン)の基調講演で始まった。まず彼は韓比間の二国間協力に加え、韓国のポップ音楽やテレビドラマの同国における影響などを賞賛した上で、韓国や日本、台湾、香港やシンガポールが貧困から脱出できた以上、フィリピンも同様に貧困から脱出できるはずだと論じた。彼は、地主と小作人が共同作業を行うことにより、地主は土地評価額の上昇により、そして小作人は収益の上昇により互恵的な関係を得ることができる例を示した上で、政府がきちんと仕事を行おうとしない400地域において投資を獲得したと述べた一方で、高価格で生産物を販売できるようなフィリピンブランドや社会的イノベーションの欠如という問題点も指摘した。また、米国に移住したフィリピン人は貧困層ではない点も指摘し、本国のフィリピン人に貧困脱出への奮起を促した。

そして全体会第1部が、「アジアの貧困について、革新的なアジアの社会的企業家が語る」という題名で行われた。活知識立群社の許国輝氏(香港)は、貧困や不平等を克服する概念として中国本土で現在「新しい公益」という表現が広まっていると述べ、社会運動を「社会における権力の性質および行使に疑問を呈する」ものと定義した上で、都市部と農村部の間での教育格差が深刻な問題となっている中国において、農村の教師の能力を高めている彼の社会的企業を紹介した。その後GOONJのアンシュ・グプタ(Anshu GUPTA)氏(インド)は、中古の布を活用して貧困層に服や女性用ナプキンを提供したり、橋や学校などを建設したりしている彼の事業を紹介した。TABLE FOR TWOの小暮真久氏(日本)は、学食などで客が25円追加で払うことにより、アフリカの貧困層に食事を提供できるようになる彼の事業を説明した。また、スリランカ国連友好協会のDeshapriya Sam Wijetunge Warnakula Arachchiralalage氏(スリランカ)は、受刑者に手工芸を教えることにより、出所後に手に職を持つことができるようになるプロジェクトを紹介した。そしてアショカ財団のデヴィッド・ポラック(And David POLLACK)氏(米国)は、社会イノベーターに資金援助を行う彼の事業の概要を説明した。

全体会第2部では、文化や芸術の役割および課題に焦点が当てられた。ソウル文化財団(서울문화재단)のオ・ジニ(오진이)女史(韓国)は、バレエダンサーやピアニストなどの芸術家になりたがっている子どもたちを資金的に援助するプロジェクトを紹介した。たんぽぽの家の播磨靖男氏(日本)は、障害者が作品を展示して、プロの芸術家としての評価を受けることができるギャラリーについて紹介した。イウム(이음)のキム・ビョンス(김병수)氏(韓国)は、全州市の中心市街地やその周辺の農村において、地元資源やさまざまな文化活動(伝統的なもののみならず現代的なものも)を活用したまちおこしの事例を紹した。そしてO-schoolのケニー・ロウ(Kenny LOW)氏(シンガポール)は、若いダンサーのプロモーション活動を行って彼らに雇用を創出しつつ、商業芸術や公演を軽蔑視するシンガポールの伝統的価値観に挑戦する彼の事業を紹介した。

その後、3つの分科会が同時並行で開催された。私は「連帯経済に根ざした社会的企業」に参加しており、ここでは5名が発表を行った。まずCSRSME Asiaのベンジャミン・キニョネス(Benjamin QUIÑONES)氏(フィリピン)が、さまざまな社会的企業で構成される供給網であるネゴセントロ(NEGOSENTRO)について説明し、3つのP(Profit(利益)、Planet(地球)およびPeople(人々))が優先事項であると述べた。次にビナ・スワダヤ(Bina Swadaya)のバンバン・イスマワン(Bambang ISMAWAN)氏(インドネシア)が、収入源の創出やオープンな精神、そして民主的管理に基づいた、地域に根ざした開発や自助組織の設立のための活動を行っている彼の組織について紹介した。パルシックの井上礼子女史(日本)は東ティモールのフェアトレードコーヒーの実践について語り、東ティモール側に会計などの技術を教えることの重要性および困難を紹介した。韓国農漁村社会研究所(한국농어촌사회연구소)のクォン・ヨングン(권영근)氏は、江原道横城郡において地域の資源を循環させたり農村への指導を行ったりすることで自給自足型の地域社会を作る実践例について語り、韓牛の生産の実例も話した。そして最後にバイナリー大学のデニソン・ジャヤスリア(Denison JAYASOORIA)氏(マレーシア)が同国における連帯経済の展望、特に老人介護や教育機関そして早期教育の分野における展望について語った後、2011年11月1日から4日までの開催予定で彼が準備中の第3回アジア連帯経済フォーラムの宣伝も行った。

これと同時並行に、「社会的イノベーターとしての社会的企業」では4名が(Re:Motion Designsのジョエル・サドラー(Joel SADLER)氏(インド)は足を失った人に対して低価格で義足を提供するサービスについて、Gadhia Solarのディーパク・ガディア(Deepak GADHIA)氏は太陽エネルギーシステムについて、ウリドンネ(우리동네)のアン・ビョンウン(안병은)氏(韓国)は水原市にて喫茶店などで精神障害者を雇用している事例を、そしてAsiaiixのダリーン・シャナズ(Durreen SHAHNAZ)女史(シンガポール)は社会的企業に融資する投資機関について)、また「アジアの事例の検討および社会的サービスを提供する社会的企業の主要課題」でも4名が(タソミ財団(다솜이재단)のパク・ジョンヒ(박정희)女史(韓国)はシングルマザーへの雇用創出や低所得層の患者向けの無料医療について、エデン社会福利基金会の周庭妤(Catherine CHOU)女史(台湾)は主に障害者が運営するガソリンスタンドについて、ケア・センターやわらぎの石川治江女史(日本)は高齢者や障碍者向けの24時間介護サービスについて、そして香港社会服務連会のWing Sai Jessica Tam女史は社会的影響の評価ツールについて)それぞれ発表を行った。

2日目は、1)文化芸術、2)グリーン技術、3)農村経済、4)社会ベンチャーインキュベーション、5)フェアトレードおよび6)エコツーリズムの6つの分野で同時に分科会が開催された。その後全体会第3部では社会的金融が論じられ、4名が発表を行った。Aspen Network of Development Entrepreneurs のランダル・ケンプナー(Randall KEMPNER)氏(米国)は、成長中の中小企業への投資の重要性を強調した。SA Capitalのリチャード・ロケ(Richard ROQUE)氏(香港)は、投資家から資金を得るために社会的企業家が知っておくべき主要概念を紹介した。E+Coのスウェタ・ポクハレル(Sweta POKHAREL)女史(タイ)は、クリーンな技術への社会的ベンチャーに対して投資を行っている彼女の事業の概況を説明した。そしてソーシャルエンタープライズネットワーク(서시얼엔터프라이즈네트워크)のイ・チョルヨン氏(이철영)氏(韓国)は、同国において社会的企業のさらなる成長のために金融部門が果たす役割について紹介した。

この会議ではアジア、特に社会的企業育成法により何百もの社会的企業が育っている主催国韓国において、社会的企業が成長を続けているおり、何万人もの人に雇用を生み出していることが示された。また、この会議では農業、フェアトレード、医療、再生可能なエネルギー、文化活動やエコツーリズムなど社会的企業の多様性も明らかにされており、これらアジア諸国のさまざまな分野にこのような経済活動が浸透していることがわかった。

その一方で、これら経済活動を本当に推進する上でアジアの人たちが認識しておく必要のある課題も明らかになった。アジアで何億人もが未だに苦しんでいる貧困の元凶として資本主義を疑問に呈す人は(ほとんど)いなかった。確かにアジア諸国の多くでは経済はまだまだ成長しており、資本主義との蜜月関係を楽しんでいるのだろうが、不可避的に環境面や社会面で外部不経済を生み出す資本主義の構造そのものについてもっと辛辣な批判があってしかるべきだっただろう。また、労働者協同組合やNPOなど、自主管理型の経済活動の重要性もこの会議では見過ごされていた。最後になったが、社会的企業のみならず、マイクロクレジットやフェアトレード、NPOや財団なども含めたより広い展望も欠けていた。他の大陸ではかなり発展しているがアジアではまだまだの連帯経済運動は、この報告で示したあらゆる努力を集束させ、さらに高い次元に引き上げる上で重要な役割を果たすことだろう。

連帯経済関連でのブラジル次期大統領の公約

11月 15, 2010

現地時間で10月31日に実施された決選投票で、ジルマ・ルセフ女史がブラジルの時期大統領に選出されたが(任期は来年1月1日より2014年12月31日まで)、彼女は連帯経済に関して、以下の13項目を公約として掲げている。また、このほか連帯経済法についても承認すると公約している(原文(ポルトガル語)はこちらで)。

  1. 連帯経済の全国政策と、持続可能な発展に向けた国の戦略との統合を推進する。
  2. 連帯経済の強化を推進し、連邦政府・州政府・市役所および町村役場との間での連携を可能とする連帯経済全国システムを構築する。
  3. 連帯経済企業に対するプログラムおよび融資プログラムのための予算を確保する。
  4. 連帯経済の企業を視覚化し、その公式化を促進する法的手段を完成させる。
  5. 公的資源へのアクセス、融資および企業の設立のための手続きを完成させ、連帯経済の発展に有利な政府機構環境を推進する。
  6. 知識および技術へのアクセスを完成させる
    ・とりわけ、社会技術プロジェクトに関して、連帯経済に向けた技術および刷新を推進
    ・連帯経済の企業に適した人材養成・技術アセスメントおよび職業資格の政策を推進
    ・あらゆる水準に向けて、連帯企業の労働者教育へのアクセスを拡充
  7. 連帯経済企業の運転資金、資本金および備品購入のために適切な連帯金融の仕組みを開発および推進する。
  8. 連帯販売の実例を推進し、公共部門による商品およびサービスの購入へのアクセスを容易にする仕組みを強化する。
  9. 社会的プログラムの受益者向けに、生産活動への組み入れ、経済参加および雇用と収入の創出のための政策として連帯経済を発展させる。
  10. 特に中南米(メルコスル(南米共同市場)およびウナスル(南米諸国連合))やアフリカにおいて、国際統合の戦略の中で、連帯経済を認識および促進する。
  11. 政府の各部署や政策と連携して、連帯経済の公共政策の分野を超えた提携を強化する。
  12. 連帯経済のための政府の政策の完成を続け、資源を保証し、この分野のための公共政策の策定、運営および実施のための能力に投資を行う。
  13. 連帯経済全国会議および連帯経済の政策やプログラムへの参加、社会的制御およびフォローアップの推進役として、連帯経済国立審議会を設立する。

今後もブラジルでは、かなり面白い取り組みが行われそうだ。

社会的企業か連帯経済か?

4月 21, 2010

東アジアの連帯経済関係者を世界の他の地域の関係者と交流させようと私は努力しており、最近社会的企業に従事している人たちに何名か会ったが、そこで私は、連帯経済よりも社会的企業という表現のほうがこの地域(日本、韓国、台湾、香港、そして最近では中国大陸でも)ではよく知られていることに気がついた。これら2つの運動は類似の目的を追求しているように見えるが、この2つの概念の間に横たわる根本的な違いについて明らかにしたい。

社会的企業の最初の取り組みが英国で生まれ、その後特に他の英語圏諸国などに広がっていったという事実をぜひ思い出していただきたい。その一方で、「連帯経済」という単語は、フランスやイタリア、スペインやカナダ(特にケベック州)、中南米やセネガルなど、ラテン系言語が話される国で幅広く使われている。今やアジアではフランス語やスペイン語、そしてポルトガル語はほとんど使われていないことから、「連帯経済」という用語がこの大陸では知られないままになっていることは想像に難くない。

社会的企業の主要概念は、障害者向けの雇用創出や、通常の融資を受けられない貧しい地域に対するマイクロクレジットなど、社会あるいは環境保護を目的とした事業を起こすというものだが、これは必ずしも既存の資本主義に挑戦するものではない。このため社会的目的がある数多くの私有企業も社会的企業とみなされているが、これは連帯経済ではほぼあり得ないことだろう。HSBCがスポンサーとなっている社会的企業関係の会議について目にしたことがあるが、この多国籍金融機関が連帯経済と手を組んでいる姿は私には想像できない。もしかしたら彼らは、社会正義の達成よりも持続可能な資本主義の構築に関心があるのかもしれない。

その一方で連帯経済は、特に世界経済フォーラムの対抗フォーラムである世界社会フォーラムにおいて、新自由主義的なグローバル化への対案として推進されてきており、この従事者は資本主義はいかなるものであれ収奪的であるとみなす。このため労働者生産協同組合などの協同組合がこの連帯経済の主要な担い手となるが、もちろん社会的企業の中にもこのカテゴリに入るものもある。

これら2つの概念が異なった社会経済的な価値観に基づいていることから、これを生み出した文化背景そのものが違うことは単なる偶然ではないと私は思う。資本主義が英語圏諸国で最も発展したことについては疑う人はいないと思うが、社会的企業では資本主義の構造そのものは手をつけられないままであることから、社会的企業のほうが連帯経済よりもはるかに都合がよいと考える人がある程度いる一方で、ラテン系の情熱を持つ人たちはその資本主義の構造事態を疑問に付す。そしてこの意味ではアジアは非常にアングロサクソン化されており、資本主義の原則を守ろうとするエリート層にとっては社会的企業のほうが連帯経済に基づいた協同組合よりもはるかに御しやすいと感じるのである。

私の偏見かも知れないが、アジアではラテン世界よりも英語圏のほうが好まれる傾向にあることから、連帯経済を推進する上で私はこの大問題に直面している。アジアでパラダイム・シフトを起こすにはどうしたらよいのだろうか。

滋賀県、環境保護や雇用創出のために補完通貨の導入を検討

4月 19, 2010

2010年4月7日(水)に滋賀県大津市で、環境保護や将来的には雇用創出のために補完通貨システムを導入する可能性についての講演会が開催された。

滋賀県には日本最大の湖である琵琶湖が存在し、この琵琶湖は滋賀県民のみならず京都府民や大阪府民、さらには兵庫県民の水がめともなっている。琵琶湖の水質に対する懸念から滋賀県では環境運動が盛んで、2006年7月には環境派の嘉田由紀子知事が就任している。補完通貨の専門家であるベルナルド・リエター(Bernard Lietaer)氏が今回、同県に対するコンサル活動を行う目的でベルギーから日本に招聘され、月曜日に同知事と面会した際にリエター氏は、同県における環境政策の推進目的の補完通貨の概略を紹介した。

彼の講演は、工業化時代にデザインされた大規模システムが、ポスト工業化時代に入ったことにより危機に瀕しているという事実を示すことから始まり、一般的な思い込みとは裏腹に、通貨制度が「価値観に対して中立ではない」(つまり、ある価値観の実現を推進する一方で、他の価値観の推進はむしろ妨害する)ことや、特に現在の法定通貨が過度に陽的(男性的)であることから、陰的(女性的)価値観を推進するためには別の通貨が必要であることからわかるように、異なった社会や経済の目的を追求するのであればそれにふさわしい通貨制度が必要であることが示された。

リエター氏の提案は、滋賀県が抱えるさまざまな課題に対処するために、2種類の補完通貨を導入するというものである。まずは、欧州4都市(ブリストル(英国)、ブリュッセル(ベルギー)、リバプール(英国)、ルクセンブルク(ルクセンブルク))で導入が検討されている事例と同様に、「びわ」と呼ばれる新しい補完通貨でのみ支払い可能な環境税の導入である。これが実施されると滋賀県は、二酸化炭素の排出権の際のように、環境のためになるボランティア活動を実施することで納税額相当のびわを稼ぐか、あるいは誰かからびわを買い取ることで納税額相当のびわを手に入れることが必要になる。2つ目は、南米のブラジルやウルグアイで導入されている企業間通貨を導入することによって企業間取引を推進し、これによって雇用創出を推進するというものである。

会場からはびわに関する質問が集中したことから、滋賀県では補完通貨の社会経済的な側面よりも環境保護的な側面に対して注目されている一方で、悪化する一方の労働条件にはあまり関心が払われていないような印象を私は受けた。とはいえ、滋賀県には数万人のブラジル人が居住しており、日本の製造業の苦境により彼らが失業に苦しんでいる現状を考えると、雇用創出について滋賀県が真剣に対処するつもりであれば、ブラジルはフォルタレザ市で生まれ、雇用創出に大いに役に立っているパルマス銀行モデルの導入についても真剣に検討することが推奨される。

第1回連帯経済社会フォーラム報告

4月 18, 2010

第1回連帯経済社会フォーラムがブラジルはリオ・グランデ・ド・スール州のサンタ・マリア市で2010年1月22日から24日にかけて開催され、この新しい経済のさまざまな分野における達成事項が紹介されたり、克服すべき課題が明確化されたりした。数百名にのぼる参加者の大多数はブラジル各地および近隣諸国(特にアルゼンチンやウルグアイ)からの参加であったが、米国、カナダ、欧州およびアジア(私のみ)からの参加もあった。このイベントへの参加者の大多数は同州ポルト・アレグレ市やその近郊に移動し、そこで1月25日から29日にかけて開催された世界社会フォーラム10周年フォーラムで議論がさらに深められた。

1月22日(金)は、ポルト・アレグレで2001年1月に第1回世界社会フォーラムが開催されてからこれまでの経過を振り返った後、2つの全体会議(「ブラジル国内市場における連帯フェアトレードに関する全国セミナー」と「国際集会: 連帯経済と世界社会フォーラム-過去の回顧と将来展望」)が同時並行で開催された。私は国際集会のほうに参加したが、そこでは連帯経済に関して周辺国の参加者が、連帯経済部門でブラジルが達成した数々の業績(連帯経済局(SENAES)やブラジル連帯経済フォーラム(FBES)などの創設)を賞賛したり、連帯経済を国外にも広げるためにブラジルにさらにリーダーシップを発揮してくれと要請したりしており、またメルコスル(南米共同市場)加盟各国(アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル)内で関税政策を調整し、連帯経済の商品が国境を越えて取引しやすくなるようにすることの重要性が強調されたりした。

2日目(1月23日(土))は、5つの分野(「連帯金融」、「教育と文化」、「国際連帯統合」、「連帯生産/販売/消費」および「食糧・栄養主権」)で分科会が開催された。私は連帯金融分科会に参加したが、そこでは私自身を含む7名が発表した。アルゼンチンから来たREDLASESのエロイサ・プリマベーラ(Heloisa Primavera)女史は、現在の通貨制度では通貨供給量が不十分であることを指摘した上で、ブラジル中銀が地域通貨に対して技術的支援を開始していると述べた。彼女は連帯経済が依然として貧者の経済活動とみなされている現状を批判し、新たな開発モデルとして見直すことを提唱した。その後補完通貨研究所 JAPAN創設者として私が続き、現在の通貨が負債であるという特徴を持っている点や、地方自治体はおろか各国政府でさえ自らの交換手段=通貨を制御できない点、また複利によって指数関数的な成長が強要されている点や、貧しいから金持ちへと富が再配分されている点を指摘し、補完通貨の事例をいくつか紹介した。その後リオ・グランデ・ド・スル州連帯交換市ネットワーク(Rede Estadual de Trocas Solidárias)のパウロ・モレイラ(Paulo Moreira)氏が、ブラジルの法定通貨レアルではなく交換券を使って商品が交換される交換市の実践について簡潔に紹介した。

さらにプレゼンは続いた。リオ・グランデ・ド・スル州の州都ポルト・アレグレから参加した中南米労働者協同組合・互助組合連合(COLACOT、Confederação Latinoamericana de Cooperativas e Mutuais de Trabalhadores)のロジェリオ・ダロー(Rogério Dalló)事務局長は、ブラジルにおいて信用組合の預金額が全預金額の4%に過ぎないと語り、バーゼルII や国際決済銀行などが推し進める新自由主義的な政策を批判した上で、中南米でもドミニカ共和国やパラグアイなどはそのような新自由主義的な政策をそのまま導入していないことを指摘し、信用金庫をバーゼルIIの対象外にすることや連帯経済世界銀行の創設を提唱した。ブラジルはセアラ州の州都フォルタレザ市でパルマス銀行(http://www.bancopalmas.org.br/およびhttp://www.banquepalmas.fr/)を創設したジョアキン・メロ氏は、ブラジルに存在する膨大な貧困は、ブラジル人の半数が金融機関から排除されているという現実に起因すると語り、パルマス銀行などのコミュニティ銀行は「ネットワークを形成した連帯金融サービスで、提携やコミュニティをベースとしており、連帯経済に基づいた雇用や収入を生み出す目的で地域経済の再構成に専念する」ものであると語った。フランスでSOLプロジェクトと呼ばれる補完通貨を実践しているセリナ・ヴィタカー(Celina Whitaker)女史は、このプロジェクトが通貨について考え直そうという着想から発生したものであり、GDP以外の指標を基にした経済活動の推進を意図していると説明したあとで、連帯経済を社会運動の目的達成のための手段と規定し、この補完通貨の使用方法(連帯経済関係の商店におけるポイントカード、タイムバンクおよびボランティア向けポイント)を紹介した。そして最後にSENAESのアロルド・メンドンサ(Haroldo Mendonça)氏が、ブラジルでも開発が遅れている北東部への融資に特化した北東部銀行(Banco do Nordeste)の成功に加え、地域通貨を発行しているコミュニティ銀行に対する中央銀行の努力を紹介した。さらに、メキシコの全国協同組合連盟(Alianza Cooperativa Nacional)の社会運動を支援しようという提案も行われた。

1月24日(日)には、食糧・栄養主権、都市農業、国際統合、行政とNPOの協働、連帯教育と文化、連帯経済の社会主義的なアイデンティティ、民衆協同組合インキュベータ、連帯経済のためのソーシャルネットワークサイト(Cirandas)、原材料調達ルートの確保、若者の参加および新たな教育方法などさまざまなテーマで、20ものワークショップが開催された。午後には土曜日の議論の内容がまとめられ、連帯経済と世界社会フォーラムとの間でお互いのためになる交流が行われ、これにより各地の連帯経済の担い手が国や大陸を超えて連携できるようになったことや、公共政策の調整の必要性、実践例のマッピングの重要性、大企業が食糧の供給を制御している現状への抗議、種子銀行の創設、食糧に対する権利、都市と農村の連帯、南北間のみならず北北間や南南間でのフェアトレードの重要性や開発も出るのパラダイム・シフトなどが話題に上った。

議論自体は翌週もポルト・アレグレ都市圏で続けられ、各国(ケベック、パラグアイ、ブラジル、メキシコ)における公共政策の比較を行ったセミナーや、ウルグアイ・ブラジル・フランスおよびボリビアから5名が無償経済について語ったセミナーなどが行われた。ブラジルでは連帯経済は民主主義の伝統に基づいており、ルラ政権(2003~)のもとでSENAESやFBESの創設により強化された一方で、パラグアイでは連帯経済はまだまだ歴史が浅いことや、メキシコでは信用金庫を推進する法制度に向けた取り組みが行われていることが紹介された。無償経済については、現在の経済では重商原理主義が行き過ぎていることや、医療が公共財であることから無料であるべきだという議論が行われた。

合計8日にわたったこのフォーラムは、正直なところちょっと長過ぎたと私は思う。特に真夏の昼間に冷房もない場所で議論が行われたことから、参加者にとってかなり疲れるものであった。また、ポルト・アレグレ都市圏ではセミナーやワークショップが各地に分散する形で開催されたが、その距離もまた問題点だったと言える。外国からの来訪者の観点で言うと、設備の整った大学など建物内で会議が行われていればありがたかったと思う。

また、このフォーラムを改善する上でのもうひとつの課題は、中南米以外とネットワークを強化し、中南米外から参加者が来て交流できるような通訳サービスの提供である。アジアからの参加者が私だけで、中南米外からの参加者が私が思っていたよりもはるかに少ない(中南米以外からの参加者は10名未満)だったことは残念である。第2回連帯経済社会フォーラムが開催される場合には、中南米以外からの参加を増やし、この運動を全世界的なものへと進化させてゆくために、さらなる努力が必要となるだろう。

第9回ワーカーズ・コレクティブ・ジャパン全国大会報告

4月 16, 2010

第9回ワーカーズ・コレクティブ・ジャパン(WNJ)全国大会が2009年12月5日(土)および6日(日)に、さいたま市で開催された。全国各地から600名近い人たちがこの場所に駆け付けたが、そのほとんど(9割以上)が50代から60代の女性であり、全国各地に散らばっているため日頃は目にすることができない仲間に会って交流を行っていた。この報告書を作成する上で、WNJによるレジメが非常に役に立ったことから、その点でWNJには感謝の念をお伝えしたい。

ワーカーズ・コレクティブ・ジャパンは1993年より2年ごとに全国大会を開いており、県支部などがこれに参加している。日本初のワーカーズは1982年に神奈川県で生まれた「にんじん」であり、その後東京都や千葉県などでもワーカーズが設立された。これらの多くが、食や子育ておよび老人介護といった当時満たされていなかった社会的ニーズを満たすために、当時すでに日本各地に広がっていた消費者生協による取り組みとして生まれたことに留意することが非常に重要である。言い換えるなら、ワーカーズの大部分は既存の消費者生協と緊密な関係を持っており、これによるメリットおよびデメリットがあるが、それについては後述する。また、数十のワーカーズがある都道府県もあれば全くないところもあるなど、ワーカーズ運動の広がりには地域的にかなりバラつきがあるのも確かである。

会議は、土曜午後に同時に開催された分科会7つから始まった。第1分科会では、現在日本にワーカーズを律する法律がないことから、その立法について議論が行われた。2011年4月に施行される保険業法の改正により共済組合に悪影響が出ることから、それに関する対策が話し合われた。立教大学の藤井敦史先生は韓国の社会的企業育成法について発表を行い、この法律が労働組合と反貧困運動の成果であることを指摘した上で、社会的脆弱階層に対して雇用および/あるいは社会サービスを提供する企業であれば社会的企業とみなされ、税金の控除や補助金などのサポートが受けられることを紹介した上で、日本に向けた戦略を提唱した。その後大河原雅子参議院議員が、法律の制定に向けたプロセスの概要を紹介した。第2分科会ではワーカーズが提供する子育ておよび老人向けサービスが取り扱われ、4名の発表者が毎日の活動について発表し、それによる利用者の生活向上の様子を紹介した。

第3分科会は食関連のワーカーズに関するものであり、その厳しい現状が紹介された上で議論された。首都圏では63のワーカーズのうち28が赤字経営となっているが、発表者は神奈川県が他都県と比べて業績が好調であることに着目し、その理由として老人介護などの分野で生活クラブ生協と食関連ワーカーズとの緊密な関係によって経営が好調であるのではないかという推論を述べた。弁当の多くは500円を超える値段であるが、現在のデフレ下にある日本では他の店が200円からという非常に安い価格で弁当を販売している現状を踏まえると、これらワーカーズの意義を理解している消費者でも経済的なオプションを選択してしまうことを忘れてはならない。

第4分科会はワーカーズの経営に関するものであり、老人介護、子育て支援、食関連などにおいて5つの成功例が紹介された。千葉県佐倉市の素晴らしい事例では、使用済食用油の回収やリサイクル、有機食品や弁当の販売など多角経営を行い、経験により時給1,000~1,300円を会員に支払っており、販売の停滞時にはチラシを近所に配っている。第5分科会では子育て支援について取り扱われ、地域社会におけるハブとしての子育て支援センターの意義や、労働集約型サービスであることからの高コスト問題が話題になった。

第6分科会では、消費者生協とワーカーズの緊密な連携による地域社会の創造が取り扱われた。神奈川県のある事例では、広告網や自主管理経営の経験など消費者生協の既存の資源をフルに活用し、高齢者介護における市民参加を推進している。別の発表者は、別の消費者生協とワーカーズとの合弁事業として福岡に設立された社会福祉法人について紹介した。第7分科会では地域社会で誰もが働く可能性が模索され、皿洗いサービスやパン屋、弁当サービスなど、引きこもりの若者や障害者など、ワーカーズに参加する前に社会的疎外に苦しんだ人たちに雇用を生み出している事例が紹介された。

日曜日の午前は、埼玉県副知事などによるあいさつから始まり、その後都市農業サポートから子育て支援や弁当サービスなど、新規ワーカーズ6つの原案発表が行われた。WNJは今回初めて、ワーカーズという概念を広く伝える目的で、外部の若者にこのような事例発表を依頼しており、参加者は原案の実現性を分析するというよりも、そのユニークさを楽しんでいた(大学生のプロジェクトの中では、教授の懐を大いにあてにしていたものもあった)。午後にはワーカーズ製品の販売や食関連の問題、NPOバンクや若者関連の問題などで9つのワークショップが開催された。

今回の全国会議は、私にとって日本のワーカーズの実践例を知る事実上初めての機会であり、その功績および課題を伺い知ることができた。ワーカーズと消費者生協との間での強いつながりは、食関連のワーカーズにおいて他の連帯経済の担い手から有機食品などを手に入れることができるという点で有益だが、それによって原材料が高くなり事業の採算性が下がるという点も挙げられる。このように高い原材料ではなく、通常の流通網から別の材料を手に入れることができればコストパフォーマンスも改善するだろうが、消費者生協の精神を他の社会経済分野にも広める方法としてワーカーズが構想されていることから、実際に別の流通網に移行するようなことはないだろう。

また、ワーカーズで働く人の多くが最低賃金未満しか得られておらず、そのことから生活するには他の収入源(夫の収入あるいは年金)を持つ必要がある点も忘れてはならない。この事実により、ワーカーズがあまり稼ぎを心配しなくてよい中流から上流の主婦や年金生活者のみのためのものであるという誤解が起こる可能性があり、男性が家族を養えるような雇用を生み出すためには別のビジネスモデルを生み出すことが早急に求められている。この点では、社会的企業に関する韓国の法律の達成事項を研究した上で、その中でどの要素を日本の法制度に適用するのかを見極めたり、ヨーロッパや中南米など別の大陸にあるワーカーズとの交流を促進したりすることが非常に有益であろう。